HISTORY
2021.08.17

すべての想定外を想定内に

宇宙服という制約下でテストする理由

慣れ親しんだ自分の身体感覚を生かし、普段通りの力をそのまま発揮することができれば、人間は想像するよりもたくさんのことができてしまうものです。しかし周囲の環境条件の僅かな変化によって、そんないつもの当たり前が、いとも簡単にできなくなってしまうことがあります。

南極や宇宙といった極地は、まさにその連続です。時に気温マイナス50°近くになる南極昭和基地。例えばいつもなら10分ほどで完了するバッテリー交換の作業でも、指先の凍傷を防ぐために何度も雪上車を行き来しながらヒーターで身体を温めるため、1時間以上もかかってしまいます。宇宙服を着用した作業では、仲間の表情をうかがい知ることができず、また無線ごしの会話もコミュニケーションを難しくさせます。

“眼は常に自然の変化から離れず、心は変化の機先を制して労を省きながら安全をはかる”

これは長年、練習船日本丸の船長を務められた千葉宗男さんの言葉です。変化の絶えない環境にいる人たちに対して、建設をはじめとした作業工程とはどうあるべきでしょうか。千葉船長はこうも言っています。

“狭い場所を広く住み分け、隅から隅まであます所なく活用し、物は何一つ粗末にせずに役に立てる。そしてすべての物は在るべき所に置かれ、いざという時にはすぐに間に合うように整頓されている”

わたしたちが目指した組み立て方法とは、どこでも、だれにでも、どんなときにでも、寄り添うことのできる作業工程です。そのヒントを探るために、さまざまな環境条件下でテストを繰り返してきたのです。DAN DAN DOMEの組み立て手順をビジュアライズした「DAN DAN GUIDE」には、そんな極地のゆるぎない哲学が込められています。

火星居住実験基地MDRSのエアロックにて(2016年/Mars160/米国ユタ州ウェイネ砂漠)